2012年5月14日 星期一

〈通訳〉たちの幕末維新 I can speak Dutch

〈通訳〉たちの幕末維新 (木村直樹さん)

 

表紙画像 著者:木村直樹  出版社:吉川弘文館 価格:¥ 2,940

 

 

[文]石田祐樹  [掲載]2012年04月22日

 ■転換する時代を生き抜く力

 嘉永6(1853)年6月。浦賀沖にやって来たペリー艦隊に、最初に接触した日本の通訳・堀達之助は「I can speak Dutch(私はオランダ語を話すことができる)」とまことにみごとな英語で言った――と米国側の記録は記している。
 堀の言葉は、当時の日本の通訳の語学力を端的に示したものだ。英語はわかるが、自由に使いこなせるのはオランダ語である、と。開国と英語の時代へ、大きく転換していくことを予感させる象徴的な一言だ。
 その後、堀は投獄されたり、開成所(のちの東大)教授のまま箱館へ派遣されたりし、明治27(1894)年、72歳で大阪に没した。
  この本は、堀をはじめ、幕末維新を生き抜いた長崎のオランダ語通訳(通詞(つうじ))たちの群像を描いている。英語も学び、欧米の思考法を身につけて大審 院院長(今の最高裁長官)になった者や、新政府に仕えた者、活版印刷技術の導入にかかわり印刷業を始めた者……。「肉声を伝える史料が少なくて苦労しまし た」と言うが、記録を突き合わせ、墓地を探すなどの積み重ねが実を結んだ。
 高校時代、ベルリンの壁が崩れるのを見て「国家の枠組みはどう成り立っているのか」と興味を持った。東大史料編纂(へんさん)所の助教となった今は熊本・細川家の文書を活字化する『大日本近世史料』の編集と、自らの研究の「二足のわらじ」を履く。
 「語学だけでなく、技術はどんどん変わり、すぐ使えなくなります。でも、それまでに身につけてきたものと、精神のしなやかさでしのいでいける。何もない時代にここまでやれる人たちがいた、ということを知れば、勇気が出てくると思います」
    ◇
 吉川弘文館・2940円

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